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ウェールズではじまった未来世代のためのwell-being法について

※このページの記事は、明日香壽川・東北大教授による講義資料と、
中村民雄・早稲田大学教授の論文「ウェールズの将来世代コミッショナー 概要と成果」を引用してまとめたものです。

はじめに

イギリスを構成する国の1つ・ウェールズで2015年からはじまった未来世代法(Well-Being of Future Generations(Wales)Act 2015)は、ウェールズ政府および公的機関が、現在および未来の世代の幸福を考慮して意思決定を行うことを義務付ける画期的な法律です。

2023年現在 同様の仕組みを持つ法律を準備している国が12カ国ほどあることが、ウェールズ未来世代法のページで公表されています。


また、来年2024年9月に、ニューヨーク国連本部で「未来サミット(Summit of the Future)」が開催されることが決まっており、すでに準備会合がはじまっています。そこには、ウェールズ未来世代コミッショナーも深く関与しており、「未来世代宣言(Declaration of the Future Generations)」が採択される予定で準備が進められています。

ウェールズ未来世代法の概要を5分でざっくり理解する動画

まず手始めに、未来世代法が5分でサクッとざっくり理解する動画を作りました。
よろしければ、ご覧ください。

ウェールズ 未来世代法成立の沿革

1997年:労働党がイギリスの政権を獲得

1999年:イギリス労働党政権、「生活の質の向上」報告書(“A better quality of life - strategy for sustainable development for the United Kingdom”)を発表。
持続可能な発展のために,環境と資源を保全しつつ人々のニーズに合うよう社会生活を改善し,同時に高い経済成長と雇用率を安定的に保つ必要があると訴えました。

2000年 6 月:イギリス労働党政権、英国全体を扱う「持続可能な発展委員会(Sustainable Development Commission)」〔以下 SD 委員会〕を設置。
ウェールズ,スコットランド,北アイルランドに地域コミッショナーを置く。

2010年:総選挙で労働党が破れて保守党・自由党連立政権が成立。
緊縮財政にもとづく準政府機関(Quango)整理により、SD委員会は廃止対象となる。

2011年3月:SD委員会、抗議の声を上げつつも廃止される。


その中でもウェールズは,伝統的に労働党への支持が厚く,1998年分権法によりウェールズ政府・議会が成立してからも一貫して労働党が議会の多数を占めてきた。

2011年4月:ウェールズ政府、「持続可能な将来コミッショナー(Commissioner for Sustainable Futures)」を置き,持続可能な発展を助言・監視する SD 委員会業務をウェールズ限りで継続。

2015年:ウェールズ政府、広く市民各層や非政府団体(NGO)から意見を聴取して報告書(“The Wales We Want”)をまとめた。この中でウェールズの長期政策諸目標案が示され,これをウェールズ議会が取り入れて法に明文化。
それと並び同法のもとでウェールズ将来世代コミッショナーが設置され,2016年 2 月に初代コミッショナーSophie Howe 氏が着任した。

(Sophie Howe氏のTEDスピーチ動画はこちら

ウェールズ未来世代法は、「持続可能な発展」の定義を、国連がSDGsを打ち出すよりも前に、環境だけでなく、ウェールズの社会経済全体の包括的Well-Beingを高める、包括的な持続可能概念となりました。

※「持続可能な発展」の定義:

将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発

(1987年・国連「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が公表した最終報告書より)

ウェールズの7つのWell-Being目標

ウェールズでは、イギリス本国からの自治権取得にあたり、大規模なタウンミーティングが各地で開催され、国民の合意のもとに、「7つの国の目標」が決められました。

みんなで話し合って、どんな国でありたいかという国の目標を決めれるなんて、とってもすてきだと思います。

ウェールズ未来世代法 49の指標について

ウェールズ未来世代法では、国や公共機関が何かを決めようとするときに、その決定は、上記7つの目標のどの施策に貢献する施策で、現状はどんな位置にあるのかを、客観的な数値で測る指標を独自に用意しています。

指標は、折に触れて追加されていっているようです。

指標の日本語訳はこちら


ウェールズ未来世代法でいう「未来」とはいつか

ウェールズ未来世代法では、「経済、社会、環境、文化」の分野において、未来世代法が適用されています。

ウェールズ未来世代法で言う「未来」は、とりあえず10〜25年先の世代を想定しています。

「将来世代がそのニーズを満たす能力を損なわずに現在世代がそのニーズを満たす」という原則に基づいて、ウェルビーイング目標の達成に向けて未来世代法が制定されています。

https://www.futuregenerations.wales/about-us/future-generations-act/

未来世代コミッショナーという役職について

ウェールズには「未来世代コミッショナー」という役職があり、大きな権限を持っています。大臣のような役職かと思います。

https://www.futuregenerations.wales/about-us/future-generations-commissioner/

ウェールズの未来世代コミッショナーの役割は、「未来の世代の守護者である」と書いてあります。
ウェールズの公的機関や、政策を決定する立場人たちが、自分たちの決定がもたらす長期的な影響について考えるのを助ける役割です。

例えば、ロボットや人工知能、コンピューターによって、イギリスでは約35%の仕事がなくなる可能性があるとしたら、それは未来の世代=子や孫の世代にとってどんな意味を持つのか。

ロボットや人工知能、コンピューターが今よりももっと発達することで、未来の世代が健康で活動的な人生を送ることにつながるのか?それとも長期的な病気や健康状態に悩まされる人生を送るのか?

公共団体は、このような事柄を考慮に入れて政策を決定する必要があり、自分たちの決定が長期的にどのような影響を与えるかに焦点を当て、問題の発生を防ぐために協力する。
取り組むべき大きな課題に対応するには、1つの公共団体だけではなく、行政機関の垣根を超えて役割を担うことも多いでしょう。

その橋渡し役を、未来世代コミッショナーが握っているのかもしれませんね。

ウェールズ未来世代法のページには、法の説明や、5年ごとのレポートなど、詳しい情報がたくさん載っています。
日本の未来世代法チームでは、少しずつですが、日米対訳で読んでいただけるページを作っています。
今お読みいただけるページはこちらからお入りください。

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